<妄想>僕の住んでいる街と僕の健康。

 今日はこの場を借りて、昨年の6月に施行された「区民の健康を守る条例」を弾劾したい。
 このブログではできるだけ時事問題や政治・経済の話題は避けようと誓っていたのだが、この悪法にはもう我慢できないのだ。

 ニュースにもなったからご存知の方も多いとは思うのだが、いま、僕の住む17区では、塩入りの食べ物を提供・販売することが条例によって禁止されている。食塩そのものは西の大市場の「食塩管理協会本部」で身分証明書を提示すれば購入することができる。でも、驚くほど高い税金がかけられていて、なかなか気軽に買うことはできない。

 17区中のカフェーや食堂で出されるのは、塩味のまったくない食べ物だ。ケバブーも春巻もチキンスープも、17区で食べるとまったく味が違う。塩気のないホットドッグ、食べたことある? ティッシュペーパーを丸めて噛んでるみたいな味しかしない。

 もちろん家で塩味の物を食べることは許されているけれど、母が塩嫌いなのであまり食べられないでいる。仕方ないから、時々、こっそりと台所で塩を舐めるくらいだ。深夜の冷え込んだキッチンの床に座り舐める食塩は実に無機的な味がする。

 17区の状況を良く知らない方も多いと思うのでざっと説明すると、17区はこの国のどんな自治体よりも先進的で過激な施策を次々と導入することで知られている。特に3年前に区長が共和党系の若手、時計田ミミオ氏になってからはさらにその傾向は顕著で、特に区民の健康増進に関してはどんどん大胆なサービスが実施されている。そういう区に住んでいることは僕の誇りでもある。それは今でも変わらない。

 でもやはり今回の条例だけは、少しやりすぎなのではないかと、僕は思っている。

 もちろん条例に断固反対の立場をとり、堂々と塩入りの料理を出してくれるバーもまだいくつかある。そういうお店はどこも塩好きの大人で大繁盛だ。しかし、おそらくそれも時間の問題だと思う。管理協会のかける税金は年々上昇を続け、彼らの経営を確実に圧迫しているからだ。

 もちろん、理屈はよく分かる。塩分摂取が高血圧を引き起こすことは医学的にも明らかであるし、近年は胃がんとの相関関係も指摘されている。確かに健康に良い物ではないのだ。特に大量に摂取してしまう人は寿命も短いことは統計的事実ではある。

 しかし、だ。別に体に悪いものなら他にいくらでもあるではないか。牛肉のコレステロールは? 乗合電車の蒸気噴煙は? 仕事のストレスは? 塩辛い物を食べて早死にするのなんて、個人の自由なんじゃないのか?

 でも、そんな議論をすることさえ犯罪、といったような雰囲気が、今の17区にはある。昨今の健康ブームも手伝って、国中のムードもバッドイメージ一色だ。大半の企業では、すでに室内で塩分を摂ることを自粛させている。会社の屋上で寒風に吹かれて食べる昼食の寂しさとむなしさ。みんなこの雰囲気が耐えられなくて次々と禁塩を心がけるようになるという。

 少量の摂取なら特に健康には問題がないことは科学的にも分かっている。でも、ちょっとでもマスコミが騒ぎ立てると「塩分=全面的に悪!」という世論がすぐさま形成されてしまうのが17区の奇妙なところだ。過激なほうの意見を代弁すれば、塩分を取りすぎる人は区民の負担である医療費を無駄に使わせてる税金泥棒なんだそうだ。ふうん。僕らは税金大目に払ってると思うのだが。

 もっと恐ろしいことに、隣の13区や、王宮のある6区の一部地域でも、同じように食塩を禁止しようという動きがある。嫌塩権という概念がこの国全体に浸透しつつある今、いつ食塩が全面違法化しても不思議ではない。これを個人の自由の侵害と言わずして何と言おうか。

 今、17区では、スポーツクラブに入会する区民が増えているという。健康のため? 違う。たっぷり運動してかいた汗をこっそりと舐めるためだ。この条例のおかげで運動をする区民が確かに増えたというのもなんだか皮肉なことなんだけど。

 今僕は、この場を借りて声を大にして言いたい。

 僕は、街で気軽に塩を食べたいのだ。ただそれだけなのだ。別に塩が嫌いな人に無理やり塩を食べさせようという気もないし、塩が嫌いな人の前では塩入りの食品を食べないだけの分別もある。

 区長および17区民のみなさんに言いたい。もう一度、冷静になって考えてくれ、と。自分の腕をこっそり舐める人生なんて、僕にはもうこれ以上耐えられないのだ。
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by AyatoSasaki | 2004-05-11 05:14 | 妄想日記